
接ぎ木能力を養うには、アルチザンであり、かつアーティストにならなければなりません。

思考はアルチザン的な発想とアーティスト的な発想を繰り返し、より分化され、より統合された「体系」へと進化します。

分化する能力を高めるにはアルチザンに、

統合する能力を高めるにはアーティストになる必要があります。

複雑な体系を「複雑系」と呼びます。
複雑系が重要な理由は、複雑性が高いほど進化の可能性が高まるからです。

複雑な体系ほど、変化する環境の中で一層多様かつ調和のとれた反応を示すことができます。
つまり、複雑な問題を解くためには、知識の木が十分に複雑になるよう養生しなければなりません。

では、アルチザンやアーティストになるにはどうすればいいのでしょうか。
1. アルチザン

アルチザンの眼は「ルーペ」のようなものです。

ルーペは一つの角度から対象が持つ像を拡大して分析する道具です。

ルーペは凸レンズを通じて像を拡大し、対象を細かく分化して見ることを助けます。

透明な凸レンズで構成されたルーペに眼を当てると、レンズの向こうにある対象が一つ見えます。
対象はレンズを通じて拡大・細分化され、部分同士の違いが鮮明に浮かび上がります。
そのため、ルーペを使いこなすには「正確なピント」を合わせる術を知らなければなりません。

「対象のどの面を選択するか」、

「どの倍率のルーペを選ぶか」という観察者の主観によって、注意を向ける焦点が変わるのです。

アルチザンの力量は「差異」を見極める眼から生まれます。
差異を見極める眼を養うためには、下位領域の知識まで深く習得しなければなりません。

一言で言えば、アルチザンになるためには知識の木を人一倍深く養生せねばなりません。
世界を判断する詳細な基準が積み重なれば、一つの対象を分化して見ることが容易になります。

分化は、単に一つとして漠然と捉えていた現象を、

多くの細分化された枝へと分けます。
アルチザンは差異を見極める眼を通じて、現象を一方向から詳細に分析します。
では、分化によって得られる利点は何でしょうか。

部分を専門化させることができます。
注意を向けるべき部分を選択し集中することで、問題解決のための詳細な機能を専門化させやすくなるのです。

立体機動装置のスナップブレードの開発過程に、アルチザンの問題解決方式がよく現れています。

『Before the fall』には、黒金竹の剣を作った職人ゼノフォンが登場します。

一般的な剣では巨人に傷を負わせられませんでしたが、黒金竹の剣は巨人に傷を負わせることができました。

しかし、こうして作られた黒金竹の剣でさえ、巨人と戦う中で破損してしまいました。

一般人なら「剣が弱いから問題が生じた」とひと括りに考えがちですが、ゼノフォンはアルチザンであるため、剣が壊れた理由をより細分化して捉えます。

ゼノフォンは剣において重要な要素を、第一に強度、第二に柔軟性、第三に鋭利さに絞り込みます。
ゼノフォンは問題を解決するには、第一の要素である強度よりも、第二、第三の要素である柔軟性と鋭利さに焦点を当てるべきだと考えました。

なぜなら、ゼノフォンが第一の強度に焦点を当てて作った解決策こそが、黒金竹の剣だったからです。
再び強度に焦点を合わせて剣をより大きく硬く作ることもできますが、それでは剣が重くなってしまいます。

重くなれば、立体機動装置の本質である機動力が見失われてしまいます。
したがってゼノフォンは、再び第一の強度に固執するのではなく、他の第二、第三の要素である柔軟性と鋭利さに焦点を当てて剣を再設計しました。

この過程を経て誕生した解決策が「スナップブレード」です。

ご覧の通り、強靭な剣というよりは、軽くてしなやかに曲がる剣です。
薄いながらも黒金竹を精製した金属に様々なレアメタルを添加しており、非常に鋭利です。

もちろん鋭利ではありますが、一見すると簡単に折れてしまいそうです。
では、ゼノフォンはこの残された強度の問題をどのように解決したのでしょうか。

ゼノフォンはこの問題をあえて解決しようとはしませんでした。
剣が折れても、交換さえ容易であれば問題ないと考えたからです。
ゼノフォンは腰のケースを作り、薄い刀身を複数収納できるように改良しました。
剣が折れても簡単に交換できるようにしたのです。
このように、ゼノフォンは差異を見極める眼を通じて問題を細分化できたからこそ、選択と集中ができました。

注意という限られたリソースをどこに注ぎ、どの機能を専門化すべきかを選択したのです。
スナップブレードが開発されたプロセスは、職人が問題を解決する過程をよく示しています。
しかし、ここで一つの疑問が生じます。
アルチザンが差異を見分ける能力に長けているなら、アーティストはどのような能力に長けているのでしょうか。
2. アーティスト

アーティストの眼は「万華鏡」のようなものです。
万華鏡は、様々な角度から見える対象を一つに統合する道具です。
三角柱の形に囲まれた万華鏡の入り口に眼を当てると、反対側の端にある破片が見えます。
破片は鏡の中で絶えず反射しつながり、躍動感あふれる新しい全体像となります。

万華鏡は鏡を通じて像を統合させます。

側面が鏡で構成された万華鏡に眼を当てると、対象だけでなく、様々な角度から見た反射した対象までが一目で見えます。




また、反射は二重、三重を超えて重なり続け、パターンは予測不能なほど複雑になります。

鏡を通じて反射し統合された対象は、部分間の差異が滑らかにつながり、新しい全体が作り出されます。
そのため、万華鏡を使いこなすには「偶然のつながり」を生み出す術を知らなければなりません。

「万華鏡の端に置く対象を変える」とか、

「対象同士の配列をどう変えるか」といった観察者の主観によって、意外性のある組み合わせが変わるのです。

アーティストの力量は「隠れたつながり」を見極める眼から生まれます。
隠れたつながりを見極める眼を養うためには、多様な領域の知識をあまねく見渡さなければなりません。

一言で言えば、アーティストになるためには知識の木を人一倍幅広く養生せねばなりません。
世界を判断する基準が多様であれば、対象を様々な観点から捉え、統合することが容易になります。

統合は、バラバラだと思っていた現象を一つにまとめ、

共通の目標に向かって疎通するように助けます。
アーティストは隠れたつながりを見極める眼を通じて、現象を多様な観点から新しく編み上げます。
では、統合によって得られる利点は何でしょうか。

部分よりも大きな「新しい全体」を作れるようになります。

互いに疎通できなかった部分に生きたつながりを作り、部分の状態では不可能だった新しい高次な機能を「創発」させるのです。

新型装置の改良のために討論していたアンヘルとシャルルの会話に、アーティストの問題解決方式がよく現れています。

『Before the fall』で、アンヘルとシャルルは、立体機動装置の前身である新型装置が抱える問題について熱い議論を交わしました。

アンヘルは職人ゼノフォンのもとで修行していたシャルルに、どんな些細なことでもいいから改良すべき点についての意見はないかと尋ねます。

数十年働いた専門家が、修行を始めたばかりの素人に意見を求める状況でした。
しかし、それゆえにシャルルは柔軟な発想ができました。

シャルルは近くでジャグリングをしている人を指差しました。

そして、あの人のように両手を自由に使えるように装置を改良すれば、便利ではないかと言ったのです。

シャルルがこう言った理由は、新型装置は剣と装置の操作レバーが分離していたからです。
片手は剣を、もう片手は操作レバーを握らねばなりませんでした。

シャルルは、そうではなく、両手が自由になるように剣の柄に装置の操作グリップを統合してはどうかと提案しました。

シャルルの発想を聞いたアンヘルは驚きました。

これまで自分は常識を書き換えるべきだと主張してきましたが、いざ自分自身が「装置は装置、剣は剣」という固定観念に囚われていたと気づいたからです。

アンヘルはシャルルの発想を受け入れ、これによって立体機動装置という、より分化され、より統合された体系が作られます。
では、アルチザン的発想とアーティスト的発想を往復すれば、何を作ることができるでしょうか。
3. アーティファクト

厳格なアルチザン的発想と柔軟なアーティスト的発想を往復していると、「アーティファクト」が作られます。

アーティファクトとは「人工物」という意味です。
ここで言う人工物とは、広い意味での人工物を指します。

哲学者マルクス・ワルトフスキーは、アリストテレスの観点を借り、人間が自然と自分自身を変容させることによって創造し得たすべてのものをアーティファクトと幅広く定義しました。
言い換えれば、知識の木を通じて作られたすべてがアーティファクトです。

先ほど見た立体機動装置だけでなく、それを作る技術、巨人を仕留めるための戦術までもがアーティファクトと見なせます。

立体機動装置というアーティファクトを紐解くと、その中にアルチザン的発想とアーティスト的発想が絡み合い、いかにして生きた全体を形作っているかが見えてきます。

立体機動装置は、分化と統合を通じて進化した「生きた体系」です。

まず、立体機動装置は「黒金竹の剣」と「移動装置」という2つの機能を分化させて発展しました。

黒金竹の剣は、刀に新素材の黒金竹を「統合」し、敵を斬るという機能を「分化」させました。

一方、装置は缶詰の原理を応用した高圧ガスボンベに新素材の氷爆石を「統合」し、移動機能を「分化」させました。

後に装置の機能がさらに「分化」され、上下にしか移動できなかった限界を克服し、

左右にも移動できるようになりました。
しかし、これは「剪定すべき死んだつながり」でした。

本来は装置の射出口が上下2つあればよかったところ、左右まで射出口を増やしたため、重量が2倍に増えてしまったのです。
いくら軽量化を試みても、依然として重すぎました。
また、上下左右の動きに限定されていたため、依然として動く巨人を仕留めるのは困難でした。

この問題は、分化された「黒金竹」と「装置」が「統合」されることで解決されます。
立体機動装置は、単なる黒金竹と装置という「部分の和」ではなく、一つの「新しい全体」となりました。

黒金竹の剣と装置を別々に使っていたときには得られなかった

「両手の自由」という新しい高次機能が創発されたのです。

両手の自由が高次機能である理由は、攻撃と移動を同時に可能にするからです。

もはや移動を終えた後、背負った大剣を抜いて攻撃する必要がなくなりました。

剣にすでに移動装置の操作グリップが付いているため、攻撃と機動の連携が滑らかになったからです。

また、ワイヤーの射出角度も上下左右に固定されず、操縦者が自分の体の動きで自由に操る方式に変わりました。

この方式は、戦闘の流れを画期的に変えました。
攻撃と移動が一つにつながった上に、360度全方向への機動が可能になったことで、目の前に迫る危急の状況も素早く回避できるようになったからです。

このように、進化のためには枝を統合し分化させ、複雑な体系を構築できなければなりません。
今回の動画では、情報体系がどのような姿であるべきかを扱いました。
では、情報体系をどのように扱うべきでしょうか。

次回のコンテンツでは、これまでの原理を応用し、『進撃の巨人』のエルヴィン団長が問題を解決していく過程について詳しく扱っていきます。
フルバージョンはYouTube「突然変異の創作法 第4-3話」でご覧いただけます